錚々たるメンバーが集まった結核閣僚会議

アムステルダム結核閣僚会議


厚生省保健医療局結核感染症課課長補佐

 葛西 健


 3月22日から24日まで、チューリップの咲き誇るオランダのアムステルダムで、世界保健機関(WHO)、世界銀行及びオランダ政府の共催により、結核罹患率の高い国々における結核対策の推進を議題とした閣僚会議が開催されました。筆者は、日本政府代表として、厚生省磯部国際課長と共にこの会議に参加する機会を得ましたので、その様子をご報告したいと思います。

 会議には、結核高蔓延20ヵ国の保健担当大臣と財政担当者、WHOなどの国際機関、さらに、英国、フランス、米国、日本といった2国間援助機関の政府関係者など、世界中から150名ほどの関係者が招かれました。司会には、BBC (英国放送)の現役キャスターと元CNNのキャスターが当たり、米国の保健大臣、英国の開発大臣、そしてオランダの保健大臣及び開発大臣が出席するなど参加者の肩書きだけでも錚々たる会議であることがご想像いただけると思います。

 開会式では、壇上にWHO事務局長、米国保健省長官、英国援助庁長官、オランダ開発省長官、オランダ厚生大臣及び世界銀行副総裁がずらりと並び、それぞれ短いスピーチを行いましたが、全員が女性であったことが参加者の間でも印象深く語られていました。共通して、結核の問題が貧困の問題と密接に関連しているという認識、また有効な薬剤があるにもかかわらず対策が進んでいな いのは「大問題!」とする認識に立っていることが紹介され、所属各機関では、結核対策を早急に取り組まなければならない課題として位置付けたとの表明がなされました。

 特に米国のシャレイラ長官からは、ニューヨークの経験から、DOTS が対費用効果も高い対策であること、また、新しい薬剤とワクチンの開発を誘導するために、クリントン大統領の指示によりこれらの開発に携わる製薬会社に対して税制面からの優遇措置を計っていることなど、参加者を元気づける発表が行われました。

 一方、高蔓延国からは、例えばDOTSは結核対策において最も有効なツールであるが、それだけでは十分でなく、薬剤耐性結核の既感染者対策、子供の結核対策、診断技術の向上等も不可欠であること、さらに、標準的なプロトコールの評価と見直しについて継続的に行うことが重要であるとの意見がありました。また、対策の継続を可能にする予算の確保については、フィリピンの大臣が、同国では現在結核対策と社会保険(医療保険)を複数年度会計で行う準備をしていると紹介したが、理想的であるが現時点では現実的ではないと複数の国々からの発言もありました。さらに、シャレイラ長官からは、「医療保険は魔法の処方箋ではなく、医療保険があるからといってマイノリティや貧困層が質の高い医療を受けられるとは限らない」との指摘がありました。

 この他、「HIVと結核の二重の負担」、「私的機関と結核対策」、「薬剤耐性結核対策」、「パートナーシップの形成」、「保健機構改革と結核対策」、「研究の推進」といったテーマで活発かつ実質的な議論が行われました。

 会議は、結核で母親をなくした教師にまつわるドキュメンタリーを上映し、上映後にその教師をパキスタンの山岳地帯から実際に呼んで話を聞いたり、途中2度にわたる記者会見を開催したりと、派手な演出の連続でしたが、一方で大臣も交えた活発な議論が行われ、最後に参加閣僚によるアムステルダム宣言の採択をもって幕を閉じた”あっという間” の3日間でした。

 「アムステルダムの会議宣言」というのは、実は初めてではありません。1992年にマラリア対策の会議が開催され、その後、ことあるごとに引用されグローバルなマラリア対策を進める上での指針の役割を果たしてきました。今回の結核の宣言が同じような役割を果たし、今回の会議の主役である高蔓延国の人々によって実際のアクションに移され、そこに住む人々に本当に意味あるものにするには、宣言のみで終わりにしないことが大切です。そんなことを考えながら、チューリップや桜が満開のアムステルダムを後にしました。


 

Updated 00/07/14